ベトナムの旅

 2011年9月、ベトナムホーチミンを訪ねました。
成田からは直行便で6時間ほどのフライト。
3泊4日の旅程でしたが、思い立って出発の
直前におさえたチケットだったので
1日目は夜遅く出発の便、4日目の帰国は
朝早くといったスケジュールで、
実質まるまる1日現地に滞在できたのは
なか1日だけというあまりゆっくりできない旅でした。

 日本との時差は2時間。ベトナムが2時間遅れと
いうことになります。
初日は現地に23:00の到着(シェラトンホテル泊)、
ビールを飲んで寝るしかない。
2日目の朝7:00頃、ホテルでビュッフェタイプの
朝食をいただく。
さすが、シェラトン。なかなかメニューは
充実していてどれもおいしい。
とくに、ぼくはフォー
(牛や鶏からとった透明あっさり出汁に平たい
米麺が入ったもの)が
気に入ったので、注文してから作ってくれる
鶏肉のフォーと、牛肉のフォーの2種類を
いただいた。1杯の量はそれほどでもないので助かる。
 今回は初めてのベトナムそして短い滞在では
ありましたが、けっこうホーチミンの
街を歩き回りました。
やはり、その中でも最も印象に残っているものの
ひとつには、とにかくみんな、
いたる所、あらゆる所でフォーを
すすっている光景です。
街中にフォーの屋台があり、
(正確にいうと屋台ではなく地べたに
座り込んで最小の調理器具でたくましく
商売している)、あまり時間に関係なく誰か
彼かそのまわりでフォーを食べている姿を
目にします。
国民食とはよく言いますが、
それ以上の呼び方はないだろうかと
思えるほどの常食性とインパクトがありました。

     
   フォーの屋台  

 メコン川へ

 2日目の朝食の後、少し遠出するなら
この日しかないので、メコン川クルーズが
できるというホーチミンから南西へ70キロの
場所にあるミトーに行くことにした。
旅行会社の主催するホテルから送迎つきの
いたれりつくせりのツアーもあったが、
そういうのにのっかるのも、つまらないと思い
ミトーまでは地元のバスを使い
自力で行くことにした。
ベトナム語は英語やラテン語系とは
別系統なので、今回の旅では
学習することをあきらめた。
覚えたのは「ありがとう」の意味の
「カム オーン」だけ。
数字もわからなかったので買い物での
値段交渉は紙に書いてもらって対応した。
英語も全く使えない地元の人だけのバスに
乗り込むとは我ながら無謀だ。
自分の座席のまわりの乗客である
おばさんたちにガイドブックを見せ、
「ミトー、ミトー」と
自分がミトーで下車したいことを強力に
アピールしておいた。
 バスは都市と地方を結ぶ中距離バスと
いった感じで、巨大ホーチミンの雑踏を抜けると
比較的快適なハイウエイとなり景色は一転、
のどかな田園風景へと変わっていった。
バスはかなりボロのマイクロバスで冷房の
効きも悪かったが、そのうち、
うとうとと寝てしまった。
1時間を少し過ぎたころだろうか。
バス中のおばさんたちが「ここがミトーだ!」と
全員で教えてくれた。
みんな優しい人たちばかりなのだ。
無事目的地で下車。

       
細い支流をこんな船に乗って    そして雄大なメコン川に出る  

 バスを降りると、ゆるやかな下り坂になっていて
船着場までは800メートルほどだった。
しばらく歩いていると、スクーターに乗った
ベトナム人がやたらバイクに乗れと声をかけてくる。
どうやら、メコン川クルーズの営業活動のようだ。
(ここは英語で対応)
とりあえず河畔まで歩いていき、
クルーズをやっている会社を物色して
みようかと考えていた。
しばらく無視していたがあまりのしつこさに、
徐々に相手のペースに巻き込まれてきていた。
聞けばクルーズツアーの値段はメコン川に
ある主要な4つの島と、観光スポットをガイドつきで
まわってくれて35万ドン(1300円くらい)。
値切るのが申し訳ないほど最初から激安だ。
この時期は特に超円高でもあったわけだが。
 容赦ない太陽が照り付けてきて、
たまらなかったので「まあ、いいか・・」と
なかばなげやりに
交渉成立させ、彼のバイクの後ろに乗った。
久しぶりに50ccのバイクに乗った。
しかもタンデム、ノーヘルで。
クルーズ事務所までの2,3分、
風が気持ちよかった。
 メコン川の支流を小さな手漕ぎボートで下り、
その後、重厚な茶色で濁った広大なメコン川を
モーターボートに乗り換え4つの島に
それぞれ上陸し、贅沢にも独り占めにした
ガイドの説明を聞きながら
ゆっくり散策する。
昼食は水上レストランで名物の
エレファント・フィッシュのからあげと、
エビのボイルしたものを注文した。
店のおねえさんがエレファント・フィッシュの
身をとりわけ香草と一緒に
ライスペーパー(春巻き)に包んで
呈してくれる。(うまい)
エビもすべて、おねえさんが目の前で
すべて丁寧に殻をむいてくれる。(もちろんうまい)
恐縮だが、ぼくのすることといったら、
水面から顔を出している睡蓮の花を
ぼんやり眺めながら
だされた料理を次々と口に運ぶことだけだ。

       
名物のエレファント・フィッシュ    エビもたらふく   

 食のチャレンジャー

 メコン川から再びバスに乗り、
夕方ホーチミンに帰ってきた。
ホーチミンはとにかく巨大な都市で
活力にあふれている。
降りたバスの停留所はかなりホテルから
離れていたがデパート、商店、屋台が
たくさんあり歩いているだけでも
なかなか楽しい。
東南アジア独特の饐えた湿気にじっとりと
つつまれた街をあてもなくぶらぶらした。
 以前読んだ「夏の闇」、「輝ける闇」といった
ベトナムを舞台にした開高健の小説の中に
ただよっていたけだるいこの街独特の空気感が
なんとなく実感できたような気がする。

       
貝料理の屋台       

 18:00過ぎ、あまりにいいにおいがするいくつかの
屋台が軒を連ねる一角にたどりついた。
ホテルに帰ってその近辺で夕食をとろうかと
考えていたが、目の前にある色とりどりの
食材の誘惑に負け、自分のいた場所も
よくわからなかったがここで
一戦まじえることにした。
歩きつかれたし、タクシーの運転手に
ホテルの名前をつげれば確実に簡単に
帰ることができる。
 とりあえず、ビール。ベトナムでビールを
頼むとだいたい瓶ビールと氷の入ったグラスが
運ばれてくる。
もちろん氷でビールの味は薄まっていくが
これがベトナム流のようだ。
そして貝料理の屋台の貝を全部端から注文し、
屋根のないプラスチックの簡易的な席に
腰をおろした。
おばあちゃんが、それぞれの貝を簡易コンロの
鍋で調理してくれ、どれもおいしい。
元来、ぼくは貝類が大好きだがここでの
一番ははまぐりのスープ仕立てだった。
貝の身もさることながら、貝から出た出汁に
レモングラスの香りが絶妙に調和し、
シンプルだったが感動的だった。
他のまわりの屋台からも色々、
気になったものを注文する。
炭火で焼きたてのつくね、空芯菜の炒め物、
ローストチキンetc。
旅先での食事ではたまに、はずすこともあるが
ここではまずいものは何もない、
というか全部おいしい。
そしてどれも、量は控えめなので
様々試せるのも、うれしい。

       
つくねと空芯菜    冷えたビールにさらに氷   

 ふと、向かいの席に座った若い女性が
食べているものが気になった。
どうやら、卵を立てる器に乗ったゆで卵のようだが、
そのゆで卵のとがった先端の部分を
スプーンでこんこんと叩いて割って、まず内部の
汁をすすり、そしてうまそうに中の
硬くなった部分をスプーンで
すくって食べている。ちらと見るとそのスプーンの
上は少し黒っぽかった。
あれは、まさか・・・。以前テレビか何かで
見た同じ光景の記憶が蘇ってきた。
 ここで、チャレンジしなくては後悔する。
好奇心の次に、根拠のない義務感がわいてきて、
おそるおそる店の人にあれと同じものを、
と注文した。
卵はすぐ運ばれてきた。女性客のやっていたように
卵の殻を割ってみた。
すると・・・やっぱりあれでした。アレ・・。

       
やっぱり、ちょっとグロ・・・      

 これはベトナムやフィリピンでよく食べられている
チュンビロンというものでした。
孵化直前のアヒルの卵を加熱したもので、
もちろん内部は生まれてくる雛の様相に
近づいています。
写真にとっておきながらそれを実際に
目の当たりにするとなかなか、
じっくり凝視できるものではありません。
およそ一般的に食べられているものであれば、
ぼくは基本的に何でも食べられる自信があります。
(これは食べられないなあ・・と、
思えるものはほとんどない)
それでも、一口目は目を閉じて、わずかの逡巡の
後に勇気とともにエイっと口に放りこんだ。
・・・ゆっくりと噛みしめてみた。
通常のゆで卵と鶏の胸肉の中間あたりの
微妙で独特な弾力の食感がある。
ホーチミンの雑踏の中で空中を見つめながら
何とコメントしようか考えた・・・。
 「これから生まれてこようという直前のやつを、
ゆでて食べてしまうのだから強い生命力と
滋味を感じる。
かなりグロテスク、しかし茹でただけなのに
何故だか料理としての風味と塩気を
そなえていてうまかった。」
(精力がつきすぎてしまう気もするが・・)

ベトナムはうまかった

 3日目は、もう夜には帰途の飛行機に
乗らなくてはならない。
しかし、この日も灼熱の暑さだが、
ホテルでじっとしているわけにはいかない。
観光客より地元の人が多く利用しているという
巨大なビンタイ市場にタクシーで行く。
日用雑貨、野菜、果物、肉、魚、乾物などの
問屋が密集していてたいへんな賑わい。
歩いていると、果物や野菜はまさに南国独特の
それでどれも巨大で、鮮烈な色彩で
目にとびこんでくる。
もちろん、生ものは持って帰れないので
乾物や調味料などをおみやげに購入した。

 あっという間の3日間でしたが、
よく歩き、よく食べた。
東南アジアの香草、とくに
パクチー(コリアンダー)などは日本人には
苦手な人が多いようですが、
とにかくベトナム料理にはこの香草類は
欠かせないものです。
もともと東南アジア系の料理は好きでしたが、
今回の旅を通してますます気に入ってしまいました。
それこそ、パクチーの香りには
病みつきになりました。
日本に帰ってからはそれまで気にも
とめていなかったパクチーが近所のスーパーに
売っているのを発見した。
ビンタイ市場で大量に買ってきた極薄の
ライスペーパーにこのパクチーと、蒸し鶏、
エビ、アボカドなどを
巻いて食べると最高においしく、そのひと時、
東京でもベトナム気分を味わうことができます。
(しばらくこればっかり食べていた)