ブラジルのリズム


ブラジルの歴史


 ブラジルは、ポルトガル人
ペドロ・アルヴァレス・カブラールによって
「発見」されたと、言われている。
しかし、スペイン人やポルトガル人が大航海時代、
新大陸を「発見」したといっても、
先住民はいたわけですから、
もちろん「発見」ではありません。
イベリア半島でのレコンキスタ
(700年以上にも及ぶイスラム支配から
キリスト教世界を奪還する闘い)終結は
1492年。
イタリア出身のコロンブスが、
スペインのイサベル女王の協力を得て、
植民地獲得のために大航海に
出発したのも、まさにこの1492年。
(コロンブスのアメリカ大陸発見は
同年10月11日)
イベリア半島でのレコンキスタ完遂が一応、
スペイン、ポルトガル国内の
安定をもたらしたので、その目は海を渡った
新大陸(アメリカ)に向けられたのでしょう。
明らかに、この時代、スペイン、
ポルトガルは海外進出において、
他のヨーロッパ諸国を出し抜き
トップランナーとなった。
その後、この2国は、
この新大陸の領土分割でもめたが、
トルデシリャス条約(1494年)により
ブラジルをポルトガル領、
その他全域はスペインが優先権を
持つという決着に至ることになる。
 その当時、ブラジルにはヨーロッパ人が
求めていた金や胡椒は
見つからなかったが、そのかわり砂糖があり
1570年代からの約100年間、
ブラジルは世界最大の砂糖産地となった。
砂糖はヨーロッパ市場で大きな需要があったため、
人出が足りず、強制労働させられたのが
先住民(インディオ)。
脱走すれば殺されたりもしただろう。
そして、それまで、この大陸になかった
天然痘やはしかも、
入植者たちによって持ち込まれたため、
先住民の人口は激減もした。
そして、新たな労働力となったのは、
アフリカから連行されてきた黒人奴隷。
許しがたい人類の過ちである奴隷制度だが、
もし、この時、同時に彼らの
携えてきたアフリカのリズムというものが、
なかったら・・・、
今日のブラジル音楽がなかったことも、
また真実に違いない。


ブラジルのリズム1

 とにかく、ブラジルのリズムといったら2拍子で

その代表格はやはり、サンバ。
サンバに欠かせない打楽器スルド(大太鼓)は
さらに、その2拍子の2拍目に
アクセント(重心)をおいて
演奏される。
(ズッ・ドーン、ズッ・ドーンとう感じ)

 ブラジル音楽における2拍子の
比率を調べてみた。
対象にしたのは以下の3冊のブラジル音楽曲集。

ショーロ・フェイクブック(出版社不明)
 ピシンギーニャなど、
 ショーロ(ショーロもブラジルの重要な音楽)の
 代表的作曲家の美しい曲を多数収録。


ボサノバ・スタンダードソング(リットーミュージック)
 ジョビンのボサノバや、
 ベッチ・カルバーリョのサンバなど収録。

ブラジリアン・ジャズ・リアルブック(出版社不明)
 ジスモンチやエルメート・パスコアールなど近代の
 前衛的ミュージシャンの作品も多いので
 やや2拍子の比率は下がる。

 

  2拍子  3拍子  4拍子  6拍子  その他 
ショーロ・フェイクブック
(全42曲) 
39曲 2曲 1曲 0曲 0曲
 ボサノバ・スタンダードソング
(全104曲)
84曲 2曲 17曲 0曲 1曲
 ブラジリアン・ジャズ・
リアルブック(全261曲)
196曲 10曲 51曲 4曲 0曲


 各3冊の全体に対する2拍子の占める割合は
ショーロ・フェイクブックは92%、
ボサノバ・スタンダードソングは80%、
ブラジリアン・ジャズ・リアルブックは75%でした。
この結果から、やはり2拍子というのは
ブラジル音楽の根幹とも呼べるでしょう。


♪ショーロ、ボサノバをギターで
バッキングする時の注意点


 ショーロやボサノバなどのブラジル音楽を
演奏するには2拍子がとても大切、
かつ2拍目に重心を感じさせるために
ギタリストは低音のチョイスにも
注意が必要だ。
譜例1、2ともに”イパネマの娘”の
冒頭のコード進行だが
譜例1は2拍めより1拍目の方が
音程が低い。
これでは2拍目に重心を
感じることができないので、
ブラジル音楽には聴こえない。
譜例2は1拍目より2拍目の方が
音程が低いので、
ブラジル音楽らしく聴こえる。

多くの自由な要素を持つ
ブラジル音楽でもありますが、
このルールだけは厳格に守った方が美しい。


譜例1 ブラジル音楽らしくない



譜例2 ブラジル音楽らしい



ブラジルのリズム2


というリズムの多用。


 サンバ、ショーロ、ボサノバなどでこの
”タタータ”というリズムがメロディーの中に
使われていない曲を探すのは至難の業だ。
それくらいこのリズムはよく耳にし、
ブラジル音楽の特徴といえます。
譜例3はジョビンの
名曲”フェリシダージ”ですが、
この”タタータ”リズムが執拗なまでに
連続され、さらにそれらが
シンコペーションされます。
つまり、
”拍のアタマを16分音符1つ分遅れて入る”ので
演奏が非常に難しいです。
しかし、それが最高に美しい!
(シンコペーションについてはこちらのページ)

譜例3 フェリシダージ



ブラジルのリズム3 バイヨン(baiao)


 ブラジル北東部、
バイーア州発祥のリズム(譜例4)とされている。
このパターンをベーシストが
弾いたとたんにブラジルの雰囲気が出る。


譜例4


ブラジルのリズム4 
パルティ―ド・アルト(Paltido Alto)


 パルティ―ド・アルト(譜例5)は
もともとサンバを
小編成(クイーカ、アゴゴ、
パンディロ・・・etc)で
演奏する方法の1つでした。
つい踊りだしたくなるようなリズム。
カバキーニョ
(ブラジルの小ぶりな4弦楽器)でこのパターンを
弾いても実にブラジルらしく、楽しい。


譜例5


♪ジョアン・ジルベルトの
パルティ―ド・アルトパターンのギター